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藝大リレーコラム - 第六十九回 髙畠 依子「取手のアトリエ」

連続コラム:藝大リレーコラム

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第六十九回 髙畠 依子「取手のアトリエ」

 大学院の時に住んでいたアパートやバイトしたコンビニを通りながら、2023年4月、6年ぶりに取手校地に向かった。研究室のアトリエの中には、前任の篠田先生が作ったコックピットと呼んでいた小部屋があって、次に入る人が使えるだろうと杉戸先生と西村先生が掃除をして残してくれた。あの小林先生はシンクを磨いてくれたらしい。学生時代にお世話になった先生たちが綺麗にしてくれたこのアトリエを、どのように使おうか考えることから教員1年目が始まった。

 絵を描くのに織機があったらどんなに良いだろうか。2016年に博士論文を書きながら、未来のアトリエを構想していた。小部屋の壁塗りをしながらそのことを思い出し、アニ?アルバースの研究をする中で知り会った中野恵美子先生に織機の相談をした。「あなたこの機会に、織物をちゃんと勉強しなさい。」と喝をいただき、すぐに織物教室に入会し、小部屋に織機を設置した。

 

 久しぶりの取手校地は以前より明るく開けた印象があった。野菜を栽培したり、地面を掘ったり、やぎのお世話をしている地域の方々や学生、職員の活動を目の当たりにする中で、カンヴァスの原料である亜麻を育てて、手織りのカンヴァスを学生と一緒に作ってみたいと閃いた。

 

 取手の土は、青灰色の固い土層で耕すのが大変だった。5月中旬に種まきし、1週間程で可愛い芽が出た。その直後に台風が上陸。雨の中、学生たちが小さな芽が流されないように、畑の周りに溝を掘ってくれた。7月中旬には水色の可憐な花が咲き、実が色付き始めた8月下旬に収穫。種を取り出す作業では、息を吹きかけたり、ファイルの上でゆすったり、傾斜をつけた板から転がしたりして学生たちがそれぞれに試行を凝らし殻と種を分けた。収穫した茎は、一週間ほど水につけるウォーターレッテイングと1ヶ月ほど畑に寝かすデューレッティングを試した。今年の夏の猛暑と降水量が少ないこともありデューレッティングした茎は、乾燥しすぎてパリパリと折れてしまった。長時間煮たが繊維が取れず、何か情報がないかと栃木県にある大麻博物館を訪ねた。館長に収穫した茎を見せたところ、その場で繊維が取れるか試して下さった。手で慎重に茎を繊維と分離させると、紡錘車を用いて螺旋状に絡まり合う一本の糸を生み出した。デューレッティングの茎は、初めから細かく砕いて短い繊維を取りだし、手で捻って糸を績んだ。工夫次第で、失敗も形にする事が出来ることを教わった。

 

 お世話になった人々の知恵、自然の力、時間、それらがより合わさって一本の糸になっていく。みんなでバトンタッチしながら繊維を繋ぎ合わせる。それらを織り合わせると、今年のカンヴァスはどのようなものが出来るだろか。今は糸積みと同時に、来年に向けて近隣農家さんの米糠と取手のやぎの堆肥や落ち葉などを混ぜて土づくりも行なっている。


【プロフィール】

髙畠 依子
東京藝術大学 美術学部 絵画科油画専攻 准教授 1982 年福岡県生まれ。2008 年多摩美術大学絵画科油画専卒業。2013 年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了。2016 年東京藝術大学大学院美術研究科博士課程美術専攻修了博士号(油画)取得。 主な個展に「CAVE」シュウゴアーツ(東京、2022)、「MARS」Gana Art Nineone(ソウル、2022)、「MARS」シュウゴアーツ(東京、2020)、「VENUS」Gana Art Hannam(ソウル、2019)、「泉」シュウゴアーツ(東京、2018)、「水浴」シュウゴアーツ ウィークエンドギャラリー(東京、2016)、「Project N 58 髙畠依子展」東京オペラシティアートギャラリー(東京、2014)など。 主なグループ展に「ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ」アーティゾン美術館(東京、2023)、「Multiple Sights????The Tenth Anniversary of the Long Museum」Long Museum West Bund(上海、中国、2022)、「FUJI TEXTILE WEEK 2021」富士吉田中心市街地および地域の機織工場(山梨、2021) 、「HAMAMATSU SESSIONS 2020」Hirano Art Gallery(浜松、静岡、2020)、「TRICK-DIMENSION」TOKYO FRONT LINE(東京、2013)、「アートアワードトーキョー丸の内 2013」(東京、2013)、「DANDANS at No Man's Land」旧フランス大使館(東京、2010)など。