

「もっとちゃんとした仕事に就きなさい」
1990年、私が新卒でナムコ(現バンダイナムコ)に入社を決めた時、教授や親戚からこっぴどく諌められました。当時のゲームセンターは不良の溜まり場と呼ばれ、そこで商売をするなどアングラな世界だと思われていたからです。
しかし、私は「遊びをクリエイトする」という言葉に痺れ、ビデオゲームという未知の体験に人生を賭けました。あれから30年以上、ゲーム開発の現場で100タイトル以上の作品を世に送り出してきました。
長くエンターテインメントの最前線にいて確信していることがあります。それは、「世界を熱狂させるヒット作は、常に常識の逆張り(あまのじゃく)から生まれる」ということです。
たとえば、格闘ゲームの金字塔『ストリートファイターII』が出現した時の衝撃。赤の他人が遊んでいる台に乱入し、邪魔をする。当時の「長く遊ばせる」「初回で誰でも遊べるようにする」という常識から見れば、迷惑で不親切な非常識の塊でした。しかし、その非常識こそが人間の「闘争心」に火をつけ、「対戦格闘」という巨大な新ジャンルを創り出しました。
私がプロデュースしたアーケードゲーム『釣りスピリッツ』も同じです。当時のメダルゲームは「勝つとメダルがじゃらじゃら出てくる」のが常識。そこで私は「むしろメダルが出てこないメダルゲーム」を作りました。
メダルの代わりに、重い釣り竿型コントローラを振り回してCGの魚と戦う「体験と熱狂」を報酬にすり替えたのです。結果として、それはメダルコーナーにおける強烈な異物となり、子どもたちの熱狂的なコミュニティを生み出しました。

汗だくになって釣りスピリッツを遊ぶ我が子
「ジャンル」とは最初から存在するものではありません。圧倒的な未知の体験(異物)が世に出て、後から人々がそれを説明するために付ける「足跡」に過ぎないのです。
そして現在、私は縁あって東京藝術大学に赴任し、エンタメ業界からこの「アートの最高峰」という未知の世界に飛び込んできました。
藝大のキャンパスを歩き、常識に縛られない尖った才能を持つ学生たちと接していると、毎日が新鮮な驚きの連続です。彼らの持つ個人的で強烈な「異物感」は、時には社会に理解されにくいかもしれません。しかし、そこに人間のドロドロとした欲望や本音(エンタメの視点)を掛け合わせ、ベクトルを少しだけ「非常識反転」させてやればどうなるか。
誰にも理解されなかった尖ったアートが、何百万人もの心を撃ち抜く「新しいジャンル」へと大化けする瞬間が、この場所から必ず生まれる。藝大というこのカオスなるつぼの新参者として、私は今、その化学反応を誰よりもワクワクしながら企んでいます。
写真(トップ):学生チームが制作したボードゲームを試遊する教師チーム

【プロフィール】
小山 順一朗(こやま じゅんいちろう)
東京藝術大学 大学院映像研究科 教授
1990年、(株)ナムコ(現バンダイナムコグループ)入社。以来30年以上にわたり100以上のタイトルをプロデュース。
代表作は『アイドルマスター』シリーズ(現在も年間数百億円規模のメガIPへと成長)、『機動戦士ガンダム 戦場の絆』『釣りスピリッツ』、VRエンターテインメント施設『VR ZONE』など。
常識を覆す「あまのじゃく発想法(M.I.P.理論)」を駆使し、常に新しい遊びのカテゴリー(ゼロイチ)を創出し続けている。現在は藝大にて、アートとエンタメを融合させた次世代のプロデューサー育成に尽力。